東京高等裁判所 昭和27年(う)1196号 判決 1952年10月23日
控訴人 原審検察官
被告人 島田明次郎
検察官 野中光治関与
主文
本件控訴を棄却する。
理由
検察官の控訴趣意は、末尾に添附した別紙記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。
論旨第二点について。
原判決が、無罪の理由として、被告人に対する公訴事実は云々というにあるも、その証明が充分でないから、刑事訴訟法第三百三十六条に則り、無罪の言渡をする旨の簡単な説明に止めていることは所論のとおりであるが、しかし、右刑事訴訟法第三百三十六条には、「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。」と規定しているだけであつて、且つ、無罪の言渡をするについては、有罪の言渡をする場合の同法第三百三十五条のような特別の規定が存しないのであるから、無罪判決の理由としては、被告事件が罪とならないか、若しくは、被告事件について犯罪の証明がないかのうちいずれかの一つによつて無罪の言渡をするものであることを示せば足るものと解すべきところ、原判決は、無罪の言渡をする理由として、前示のように、本件の公訴事実を具体的に掲げた上、その証明が充分でないから、刑事訴訟法第三百三十六条に則り、無罪の言渡をする旨を判示しているのであるから、同法の要求する前示の要件を充分に具備するものというべく、従つて、原判決には、所論のような違法があるものということはできない故に、所論は到底採用に値しない。
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 大塚今比古 判事 山田要治 判事 中野次雄)
控訴趣意
第二、原判決は理由を附さないか又は理由にくいちがいがある。即ち前記のように公判に於て取調べた証拠により本件の証明は十分であると信ずるのである。然るに原審は単に証明が充分でないと判示したに過ぎない。経験法則上一応の証拠と認め得られるものを排斥するには之等の証拠が措信するに足らないものであるとするその理由を説明しなければ判決の理由としては不備であると云わなければならないのであつて結局原判決は首肯するに足る理由を附さないか又は理由にくいちがいがあるものと信ずる。
(その他の控訴趣意は省略する。)